Howdy! Darling

——with love

 ルースターことブラッドリー・ブラッドショーと、ハングマンことジェイク・セレシンは今となっては腐れ縁と言うべき関係なのだろう。ジェイクの認識ではそうだ。
 年嵩の同期生として出会い、トップガンでも同時に招集され、特別任務も大小何度か供にしていたし、今回の極秘特別ミッションでもまた一緒になったものだから。
 そして、今回。
 ジェイクはブラッドリーと彼と深いつながりのある上官の命を救ったのだ。
 イヤーマフ越しでも轟音のエンジンと同じぐらいに聞こえる歓声に出迎えられ、確かにジェイクは人生で一番興奮していたと思う。
 だけれど、少し遅れて帰還したブラッドリーのまるで故郷の夏の草いきれのように強い生命力と熱を感じて、ジェイクは手を握った瞬間に自分の行いは正しかったのだと理解できた。
 ブラッドリーの頬は真っ赤に火照っていて、瞬きするごとにちかちかした星屑が舞っているみたいだ、と錯覚したぐらいに今までとは別ものに見えた。
 ジェイクは目を細めて、そんな長い付き合いの中ではじめて見た屈託ない笑顔を見返したのだ。
 まるで夜明けだな、と。
 そう言ってやりたかった。

————with Love

 それからあっという間が過ぎた。
 帰還しても、感謝祭があっても、ことの詳細は作戦に関わった人間以外の誰にも言えず、いつもとたいして変わりはないよ、とごまかし続けた。さすがに母親は「なんだか少し雰囲気変わったんじゃない?」と、わき腹をくすぐるような距離感で言われたが、どうに逃げ切れたはずだ。ジェイクとしてはその変化の自覚はなかったが。
 そうなるともうあたりには鈴の音が聞こえてくる。
 クリスマスが街にやってきた、だ。パームツリーにも電飾が張り巡らされ、どこにいても聞こえるクリスマスソングにつられて口ずさむようになってくる季節。
 結局あの作戦に選抜されたメンバーは未だに本隊には戻らず、皆サンディエゴに留まり日々の訓練にいそしんでいる。ブラッドリーは若手の育成にも顔を出しているようだったが、今日はずいぶんと様子がおかしい。
 いや、違うな。ジェイクは小首をかしげる。
「なあ……、その、ルースター?」
 ここのところずっと、様子がおかしいの間違いだ。
「……ああ」
 実のところジェイク及び他のパイロット連中の間で本名を呼び合うことは稀だ。
 本隊に所属する仲間は別として、臨時で組まれた編隊であれば基本はコールサインを呼ぶ。作戦中に間違いがないようにの措置だ。
 ジェイクがブラッドリーと初めて出会った日、彼は本名を特に名乗らなかった。ジェイクもあえて聞かなかった。胸のネームプレートを見れば済むことだからだ。名簿にはフルネームが載っていて、それを見て「俺が親なら少し迷う名だな」と思ったぐらいだ。当時もジェイクには思ったことを思ったままに言うという悪癖はあったが、珍しく賢明な日だった。
 それから、成績が並ぶことが多く、ジェイクはアナポリスの出身のエリートコース、ブラッドリーはパブリックアイビー出身の苦労人であるから周囲も二人をライバルと見なして扱うようになった。実際の関係も十数年経ってもそんな感じに見えているのだろう。
 スロースターターで慎重。訓練であっても被害を最小に留めたいルースターと、最速を誇り任務に徹することを信条とするジェイクは当然のようにぶつかりあった。はたから見れば年嵩が鷹揚な誰にでも信頼されている温厚な男に噛みつく血統書つきのよく吠える犬の構図と言ったところだ。
 ジェイクはそれに自覚的で、お互いの主張が平行線だったとしても、それを伝えることに意義があると思っていたほどだ。
 それもこれも、今となってはの話だ。ジェイクはただ、彼の命を救えたことが嬉しかった。彼の時折見せていた鬱屈から解放されたように思えたのも良かった。ジェイクはこのあたりが実に単純明快で、気に入らないもの、気に掛かることはできれば何もない方がいいと思っている。
 彼の親友はよく「そうじゃなきゃいつも絶好調とはいかないもんな」と笑った。
 その通り、あえて難しくする必要はない。
「……調子悪かったりするのか? その……顔がずっと赤い、その、あの時からずっとそんな感じだが」
 歯切れが悪いのは自分らしくはないが、握手以前のようにからかったりすることができなかった。あげつらうにはあまりにも表情が深刻だったからだ。
 ブラッドリーは華やかに飾り付けられているディスプレイも、たくさんの風船を抱えて行き交う子供達にプレゼントしているサンタガールも何も見えていないように、少し遠くの地面のあたりを睨んでいて、眉間に皺を寄せた険しい顔は、こちらを見てはいなかった。
 それでも頬だけが、今日も薔薇色に燃えている。
 そこにはノスタルジックな夏があり、ジェイクはやはり言いにくそうに「今日の行き先もわからないんだが」首を反対側に倒した。
 十二月に入ってから、二度。
 ブラッドリーに誘われて二人で出かけた。一回目はホームセンターを端から端まで歩いて回って終わった。夕飯はどうだ、とジェイクの方から誘ってダイナーに行った。
 二度目は海岸沿いの遊歩道を亀よりもゆっくりと歩いた。昔の話を少しして、推理小説の探偵よろしく質問を繰り返し、ようやくブラッドリーが彼と深いつながりのある上官、つまりはマーヴェリックと和解の道を辿りつつあることを知り得た。
 その日もジェイクが気に入っていたカジュアルなシーフードレストランで、プラッターを食べた。
 ブラッドリーは二人前は食べていたと思う。
「前に……クリスマス、一緒に過ごした時のことを……覚えてるか?」
 そして今日も、出かけないか? の問いにジェイクは素直に応じた。さすがに嫌みの一つや二つ言っても良い頃合いだ。目的も意味も何もわからないまま気の利かない、ろくにコミュニケーションが取れない人間と休日を過ごそうと言うのだから、その権利がある。
 去年なら、初日で大げんかだ。それでなくても今のように質問に質問を返す失礼さに、壊れたロボットとは付き合いきれん、とでも言って立ち去っていただろう。
 不思議と今は腹も立たず、真夏を感じさせるブラッドリーの顔の汗を拭ってやるべきか考える余裕さえある。熱でもあるんだろうか、と思えば心配にもなる。
「一緒、というのは語弊があるだろう、ルースター。同じ空母にはいたが、隊も違っていた」
 ジェイクはトップガンに呼ばれる直前の出来事をなんとか思い出し、記憶をたぐり寄せる。ブラッドリーの後ろには青空と夜には輝くだろうイルミネーションのフレーム、足を向けている先はおそらくはクリスマス・マーケット。温暖な気候であっても、全力でクリスマスをやるぞ、の意志が街中に溢れている。
 本来ならば眉間に皺を寄せたりしたくない、そうであればいい、そんなシーズンであるはずだ。
「……食堂で、新兵にホットチョコレートを入れてやった日だな」
 ブラッドリーがその空母にいたのは通常の任務で、ジェイクの隊は臨時で呼ばれていた。クリスマス休暇シフトの穴埋めというような「とばっちり」だったと思う。
 隊の人間でもない、年もそう変わらない新兵(ハイスクールを卒業したばかりだろう)が要塞であり、迷路でもある空母の中の配管の隙間のようなところでうずくまって泣いているのを見かけてしまった日だった。
 無視をしても良かったが見える範囲にあった頬の丸さが本当に幼く思えて、ジェイクは彼を食堂に連れていった。幸い、彼の所属を聞けばアナポリスの同期がいたので、彼に取りなしてもらえばいいだろうと考えたのだ。
 とは言え、ジェイクに出来たのはホットチョコレートにマシュマロを二つ浮かべるだけのことぐらいで、もう少し愛想が良かったり、誰とでも仲良くできるたちであったらもう少し融通が効いただろうな、と少しばかり心苦しく思ったのも、覚えている。
 そうだ。
 確かにあの日、同じ食堂にブラッドリーの姿もあった。
「完全なホームシックだったからな、甘いものを飲ませて話を聞いてやったんだ。ほんの子供のようにしか見えなかったし、弟に似てたんだ」
 ジェイクがうちには弟が二人いて、と脱線しようとしたら「知ってる」と短く返される。なるほど? まだ話は終わっていないらしい。それに弟の話をした覚えはなかった。
「……おまえにも口止め料として、飲ませたな?」
 ちらちら、と伺うような視線があり、軍規違反ではないにしろ面倒事は困ると思ったから、ブラッドリーにもあつあつのホットチョコレートに、やはりマシュマロを浮かべたものを差し出した。メリー・クリスマスとも言ったと思う。このシーズンの任務には不思議と連帯感が沸くものだったからだ。
 いつもなら、形だけでも「ありがとう」と言うだろうし、何なら一口飲んで笑顔の一つも返すのがブラッドリーだったはずなのに、この日は今日のように様子がおかしかったのも、思い出した。
「ずいぶんとよろしくない反応だったと思うが?」
 一口飲んだがその後むっつりと黙りこんでいたし、仏頂面だったような記憶だ。
「……母親がよく作ってくれたんだ」
「おっと」
 ジェイクは両手を挙げて降参のポーズで、一歩ブラッドリーから離れた。どこにでもあるチョコレートとミルクで作っただけの代物に意味などはなかった。これ以上彼のセンシティブな箇所を刺激するつもりはないジェイクはここで話を切り上げようとした。
 でも、ブラッドリーの頬はますます赤味を増し、熱をあげているように見えた。
 触れたらやけどしそうだ。
「……あのさ」
「おう?」
 何が正解か、さっぱりわからなくなってきた。流れてくるラストクリスマスの未練がましさをどう思うかを聞くには、ブラッドリーは適していない。この会話のルートが正解なのか、ジェイクにはわからないが、今日のブラッドリーよりはまともにおしゃべりはできる気がする。
「俺、おまえに彼氏ができたっていう……噂が一番……なんかイラついてさ。……元カノの結婚パーティーにはいけるんだけど」
 こんなに脈絡がないのは初めてかもしれない。自分の噂話を気に留めていたのには驚いたけれど、ジェイクは何でだよと言って声を立てて笑う。好意的な噂でもなかったろうに、口に出してしまう迂闊さは実にらしくない。
「しかも……付き合うと結構長いだろ、その……クリスマスを二回過ごすとか……?」
 前の彼氏の時に聞いた、とこちらの様子を伺いながらのセリフは、ジェイクの眉を大げさに動かすことに成功する。どこの誰の情報かは知らないが、それを信じているらしいブラッドリーにも呆れてしまう。
 だから何だって言うんだ。
「噂話を鵜呑みにするな。確かに『尻軽』ではないと思うが、おまえに迷惑をかけたか?」
 顔の横でダブルコーテーションを示し、少し語気を強めて言った。大きな体でしどろもどろになってもちっともかわいくない、という端的な事実を伝えてやるべきだろうか?
 だけれど、これには見覚えがある。
「そ、そうじゃなくて、その……ええと……」
 よく見ると潤んで一回り大きく見える瞳、緊張しているのか何度も舐めて荒れ始めている唇。呼吸も浅く、おそらくは脈拍も早まっているのだろう。真っ赤な頬は高熱のせいではなく、衛生兵を呼ぶまでもない。
 つまり、だ。
 ジェイクは三度ほど、大きく瞬きをして、
「……おいおい、まさか……?」
 いつもより高い声をあげた。
 だって、なんで、まさか。
 頭の中にクエスチョンマークが飛び跳ねている。
「………………驚くなよ」
 低く唸るような声、不満そうな表情にやや尖らせた唇は駄々っ子のそれだ。
 純情なのか、晩生なのか(どちらもありえないと皆、知っているが)、受け入れられて当然というのが色男の噂通りの反応、なのかもしれない。
「怒るなよ、ふふ……ははは!」
 笑うなって、と今度は泣きそうな声が上がるが、ジェイクは止められそうになかった。だって、あの、ブラッドリー・ブラッドショーが! ホットチョコレートを差し入れた(しかも、ついでだ)だけで落とせるなんて、吹聴した回った方がいいのではないか?
 少なくともときめく人間は多いだろうな、とジェイクはすっかり眉を下げてしまった男を見返しながら、そう思った。
「なんか……感じたりは、なかったのか? 一度も?」
「あの態度で?」
 態度が悪かったのはお互い様だが、とちゃんと前置いてジェイクはそう返した。じゃれるつもりで言った言葉に息の根を止めるようなきつい一言を返されるなんてのも珍しいことじゃなかった。そこに好意が含まれているとは、いくらおめでたい思考回路を持っている方でも、気付きもしなかった。
「しかもまさか三日目のデートのセオリーなんか信じてるタイプじゃないよな?」
 愛している、を言うまでもなく、何となくでステディになるセオリーは、今の時代もそうなんだろうか。
 ジェイクには、わからなかった。
 何しろ、今までステディに至るまでの関係を構築したことがないからだ。口説かれることも、たまにデートに至るケースもあったけれど、スケジュールを合わせてまで次を、という話にはならない。軍人は秘密が多いのも、恋愛関係構築の難しさの一端だと思う。
 つまり、ブラッドリーが聞いた噂はすべて噂に過ぎず、おそらくはすぐ下の弟といる時に誰かに見られただけのことだろうと思う。クリスマスもシフトが合えば家族と過ごした。
「そもそもこんなのはデートじゃない。この三日、おまえは真っ赤な顔で難しい顔をしてべらべらしゃべったと思ったらまた黙り込んで、の繰り返し。20代の女の子が相手なら、二度と会ってもらえないぞ、モテ男がどうした?」
 母親が作ったものと同じ味がしたからなんていうきっかけは、それがキャセロールだろうと、ホットチョコレートであろうとあまり口にしない方がいいし、数年前のクリスマスの思い出を引っぱり出して来るにはブラッドリーの日頃の行いがよろしくない。
 というか。
 少し、おじさんみたいだな、とジェイクは口元をゆるめる。色気の塊のような男が、と思うと笑わずにはいられない。
「……俺にもわからないが……」
 ブラッドリーはこちらを見て瞬きを繰り返す。そして熱にうかされた患者のように、ぼんやりとした声で呟く。
「……きれいだ……」
 シャンシャンシャンという鈴の音は二人のためではなく、クリスマスプレゼントの買い忘れがないか確かめるように促すもののはずだ。
 でも、ジェイクは悪くないと思った。何度となく聞いてきたはずの台詞に色がついたような感覚。
「おまえはいつもそれだ」
 いつもと違う意味が乗ったその言葉は、あの日の甲板の時のようにジェイクの目を細めさせる。こちらも衛生兵は必要ないが、明らかな心拍数の増加と喉の渇きを覚えている。
「……レストランの予約もしてないだろう? 今からじゃ無理だ」
 仮に。
 三回のデートをカウントしたとしても、だ。話しにならない、とジェイクが大仰に肩をすくめて見せると、今度は慌てるのではなく、しっかりと不満顔を見せる。まるで坊やで、そんな様子を見せることが、嬉しかった。
 夜明けを迎えた男の、あるべき姿を見られるのは光栄で。
 幸福なのだと知った。
「選択肢は2つだ、ルースター」
 自己紹介をするのに、名乗らなかったわけもいつか聞かせてくれるのだろうか。
 今までのクリスマスで、何度ホットチョコレートのことを思い出したのだろうか? 険悪になった時に冷めたりはしなかったのか?
「ちゃんと言葉にして、おまえの言いたいことを言うか、このまま何となくたまに会って飲むぐらいの付き合いを続けるか」
 メリークリスマス、ちょっと大きな坊やたち、道を空けて!
 そうマーケットに急ぐご婦人に言われて少し端に寄る。ブラッドリーは髪を何度もかきあげて、それから小さく唸った後、ぐっと拳を握り締めた。
 色男は、ことを進める際に「いい?」と言うだけでいいと聞いたことがある。
 でも、それはジェイクの好みじゃない。
「……おまえが好きだ、ハングマン。……あの日は一人になってから、初めて、飲んだんだよ。ホットチョコレートを……。二度と飲むつもりはなかったのに、おまえがあんなに優しい声でメリー・クリスマスって言ってくれるから」
 俺のせいかよ、とは言わなかった。ジェイクは「続けて」と後押しをしてやった。自分の性格が変わったわけではないし、今後も小競り合いか決闘かはわからないが、ぶつかることもあるだろうとは思う。
 でもこの太陽のような熱を放つ男の命を助けたのは、ジェイク自身なので。
 大切にしたいと思うのは道理が通る。
「……その日から、おまえのことが気になって仕方がなかった。噛みついてくるのにも……どこか、優越感を感じていたし、俺がおまえを傷付けることにも、少し、気分をよくしてた……最悪だな」
 これにはわからないでもない、と肩をすくめておく。むしろ、吊り橋効果ではないことが証明できて、安堵したぐらいだ。
 いつか冷める熱よりは、傲慢な優位性の方がよいと思うのは、こちらが吊り橋効果を受けているということになるのかもしれないが。
 でも、この熱さだ。
 冷めることは考えられない。ジェイクは自分が浮かれていることに気づき、なるほど、と頷く。これが、ステディに必要な感情なのだしたら、確かに今までにいなかったことも頷ける。
 こんなのは、誰にでも抱けるもではない、と胸の締めつけられる感覚とその場で跳びはねてしまいそうな高揚感に教えられる。
「それなのにおまえに今……恋人がいるかも聞けなかった……」
「聞けば?」
「……いや、もういようがいまいが……関係ない。俺は……おまえに二度助けられたし、おまえがいつだって頭の中に居座ってどかすこともできない。おまえが誰を愛そうとそれは変わらないし、変えようとも思わない。……好きだとか、愛しているだとか、言い方は色々あるし、この先それをちゃんと伝えたいと思っている。だけど、今は」
「今は?」
 鸚鵡返しにするのは、確信したいため。
「おまえしかいないんだ、俺には」
 単純化できない感情もすべて、ぶつけたいという攻撃性と、きれいだと声を震わせるロマンチックと、寂しがり屋のナイーブさが、すべてないまぜになった、唯一の言葉。
「俺は古風な男が好きでね」
 ジェイクは下唇をぐっと噛みしめて、しっかりとブラッドリーを見つめると、
「最高得点を叩きだしたぞ?」
 と、言ってやった。
 じわりと溢れた涙を指先で拭って、熱い頬に手の平を押し当てる。今はこの熱さが、冬の暖炉のそれに思えてきた。苛烈な夏にはない、ぬくもりがジェイクにも広がっていく。
「さあ、俺達もマーケットに急ごう。売れ残りでもいい、大きなツリーを買うぞ。肉を買って仕込みの開始だ! オーブンのメンテナンスはどうだ? 三日だ。三日ですべて完璧に準備する」
 ブラッドリーは顔をくしゃくしゃにして、それから最高だ、と呟いた。
 そうとも、とジェイクは答える。
「俺の救世主だ……」
「そうだな、俺の乏しい知識からすれば、ここはキスのタイミングだと思うが」
 できないのなら、してやるまでだ。
 少しだけ、同じぐらいの背格好のはずだが、背伸びをして唇に触れる直前で、してやったりとにんまりと微笑むと、ブラッドリーはまた小さな雫を目尻からこぼす。
 だから、ジェイクは優しく触れるだけのキスを二、三度と繰り返してから、唇で拭ってやった。
「泣き虫坊やには、ホットチョコレートが必要だな」
 さあ、行こう。
 手を引いて歩き出すと、後ろからかすかな声で「愛してる……」が聞こえた。ジェイクはあの日の握手よりさらに強くその手を握りしめて、肩越しに振り返ってこう言った。
「喜べ、ブラッドリー! 俺も今、最高になった!」
 初めての、最高だ。
 そう続けて片目をつむると、慌てる声が聞こえたが今は後回しだ。三日でさらに最高にするにはすべきことがいっぱいあるからな。
 オーナメントの一番上の星はおまえがつけるんだ。
 メリー・クリスマス。おまえには、それこそが相応しいよ。


RHアドベントカレンダー2024

ルースターからのラブをハングマン視点で書きたくて、こねこねしました!
カップル誕生は何度書いても良いものです……!

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